タディのブログ

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【TRICK×LOGIC】トリック×ロジック回想録 ~第1話「盗まれたフィギュア」~ #tricklogic

盗まれたフィギュア画像

第一話「盗まれたフィギュア」 我孫子武丸

この話は第一話だけあって非常に素直な作り。 練習問題に比べて一気に文章量が多くなったけど、これでやっと「探偵小説っぽく」なってきている。 トリック×ロジック全作品中唯一殺人が描かれていない作品です。

推理そのものとは関係ないが、この話で初めて本作品のヒロイン「天野つかさ」が登場します。 設定は大学生で20歳のはずだが、正直中学生と言われても納得しそう。そんな背の小さいお嬢さん。 この話で丸の内警部、天野つかさ、芳川という主要人物が出揃うことになります。

話のあらすじとしては、とあるオタクのコレクターの貴重なコレクションが倉庫からなくなり、その犯人を探す話。 容疑者は天野つかさをはじめ、発見時と、前回倉庫の鍵が開けられたときに倉庫に入ったメンバー。 倉庫には外国製の南京錠が掛かっていて、鍵を持つオーナーしか開けられるはずがなかった。 現場は密室。前回の倉庫の鍵が空けられたときに盗まれたのか? それとも前回以後、反抗発見時までの間に誰かが侵入したのか?

以下、ネタバレを含みます。

この話のトリックは南京錠のすり替え。 倉庫に全員で入った後、トイレに行くと言って外に出て、外の扉につきっぱなしだった南京錠を自分が用意した同じ南京錠と交換。 南京錠は締めるときには鍵を使わないことから、倉庫から全員が出て鍵を閉める時には気づかない。 そして、その後交換した鍵を空けて倉庫に侵入。フィギュアを盗み、すり替えた鍵を元に戻しておいたというもの。

この話は、事実上最初の話だけあって、ミスリードに振り回されまくったのを覚えてます。 なにせ最初に見つけたナゾは次のナゾです。

「親は宮本の趣味を理解していたのか?」

こんなナゾがどう関係するんだ? 一度思考が停止したのを覚えています。 結局このナゾはこの作品の謎解きにはなにも関係ない、いわゆる読者の思考を正答から背けさせるミスディレクションでした(誤った指図)。 しかし、この作品ではこのようなミスリードが至る所に散りばめられています。

そして、これは自分が悪いのですが、一度でも解答を間違ってしまうと、ランク(このゲームはヒントなく謎解きに成功するかしないかでC~Sのクリアランクが設定されている)が下がってしまうのでないかと思い込んでいました。なので「一度も間違ってはいけない!」みたいな強迫観念に追われてプレイしていた気がします。今から振り返るとです。 (余談だけど、ヒントさえ見なければ何回解答してもランクは下がらない事実に気づいたのは第4話でした)

この作品、クリアするまではナゾの総数や、ヒラメキの総数がわからないです。 だから、どれだけナゾを探し出しても、どれだけヒラメキを探し出しても「まだ、自分の探し出せていないナゾがあるんじゃないかという疑問が拭えませんでした。 やっと納得行くほどアカシャを読み込み、一発で検証終了(ゲームクリア)したときは、感動と共に安堵したのを覚えています。

自分がこの第一話で一番苦労したのは次のヒラメキでした。 ナゾ「南京錠をすり替えたのはいつか?」×キーワード「トイレにに行くときはもちろん手ぶら」=ヒラメキ「トイレに行くときに南京錠をすり替えた」

このナゾ、どうして苦労したのかというと別に「トイレに行くときに南京錠に細工した」というヒラメキが別にあったからです。 上記のとおり南京錠はすり替えたのは「細工した」と表現しても別におかしいとは思わない。 でも、それだと何かの違和感が残った。「細工した」では「すり替えた」以外の漠然としたヒラメキだったから。 それで色々探してみて見つかったのが「すり替えた」のヒラメキ。 これを探し出したときに解答に挑む決意がついたわけです。

この話、良くも悪くも「第一話」として非常に俊逸だったと思います。 推理小説としては検証していない要素も多く、完成された作品とは言えないですが(そもそも短編で「完成された探偵小説」はないと思うが)練習問題から本編に至るブリッジとしての作品として非常に楽しめる回でした。 大げさなことを言えばトリック×ロジックにおいて「最もワクワクした」作品かもしれないです。 余計な先入観なく、純粋に楽しめた唯一の作品として。

次回は第二話「明かりの消えた部屋で」 ここからが「良い意味でも悪い意味でも」真のトリック×ロジックの始まりになった回でした。